怒る姿に、社長の本気度を見た。

第二章 戦いに向けて体制を整える。▲-余裕がなければ改革は望めない。-

 

 1.戦う前にトップの意思を確認する。

 私は、経理を「経営の中枢部門に引上げたい」と思った。▲そうすることが、この会社を良くすることにつながると思ったからである。

 過って、会社は、本業の自動車部品製造の他に、「太陽光発電」や「ベトナムで産学共同による新規ビジネスの構築」などを積極的に展開した時期があった。▲ その事業コンセプトは随所にわたり徹底されており、名古屋工場建設のおりには、電力を自己調達すべく屋上にはソーラーパネルが敷詰められていた。▲また、プロ女子サッカーのグランドは、通年を通して深緑の芝が望めるようにと、地下に太陽光温水が張り巡らされた。

 これらは、将来を見据えた素晴らしい取り組みと称され、全員がそれに向かって一直線に走った。 

ただ残念なことに、余りにも斬新なビジネス計画であったため、周りの環境が付いてこなかった。時期早尚があだとなり、ビジネス化が遅れた。その結果、投資は回収されないまま長期化していった。積み重なった投資は次第に財務体質に影響を与えていった。まさに経営のバランスが崩れたのだ。▲私が赴任した当時は、この反省から、経営コンセプトは「集中と選択」に切り替わっており、その真っ只中にあった。

 この状況下で、「経理が軽るんじるはずがない」と私は思った。▲経営のバランスを注視するのは経理の重要な役割の一つであるからである。

 でも、自分の一人よがりではとても戦うことはできない。▲後ろから矢が飛んでくる可能性もある。▲経営トップの意思を確認したい。▲そう思っていたある日。その日が訪れた。

 

 初出勤から1ヶ月ぐらいたってだろうか、経営トップに挨拶に行くことになった。▲ ついでだからと云って、経理部全員で社長室に向かった。▲運悪く、社長と廊下で出会ってしまった。▲社長は、そのまま廊下でしゃべり出したのである。

 私は、てっきり、社長室に招いてもらい、ふかふかしたソファーの上で、コヒーでも飲みながら、私に期待していることを話していただけるものとばかり思っていた。▲その中で、社長が思っている経理への期待を確認しようと考えていたのだが、甘かった。

 そればかりではない。話はどんどんエスカレートしていき、ついには『経理はなにもしていない』と激怒しはじめたのである。▲これには驚かされた。▲私のシナリオには全くないものだった。▲当然、私の考えを言える余地などなかった。▲挨拶もそこそこにして、全員、頭を抱えて帰ってきた。

 

でも、私には一つの確信が得られた。▲ あれだけ、私達を叱ったということは「社長は、本気で経理を強くしたい」と思っている。そう思えた。▲「この社長は、こちらが本気でぶつかっていけば、けして逃げたりはしない」そう確信したのである。