思い切った一言が、人を動かす。

第二章 戦いに向けて体制を整える。-余裕がなければ改革は望めない。

 2.「一時休戦」をしてでも、ドタバタの真因を突き止める

 

~~~前の投稿からの続き~~

ちょっと、話が横道にそれてしまいましたが、この頃、いかに、構造転換に必死に取り組むあまり、非常に重苦しい雰囲気であったかを知っていただきたく書かせてもらいました。私は、この重苦しい会議の中で、「一時休戦」を申し出たのです。

  いつもは取締役経理部長が、この会議で報告するのであるが、この日は、たまたま出張の予定が入っており、『大石さん、代わりに、やっといてよ!』と言うことになった。

『でも私はまだ来たばっかりで、なにもわかりませんので・・・』躊躇していると『ここに喋ること書いといたから、これ読んで』と、無理やり引き受けることになった。

 いよいよ会議が始まった。いつもと同じように、重い雰囲気の中で始まった。どの部門にも、厳しい注文が飛び交っていた。いよいよ経理部の番が廻ってきた。

『経理では決算日を3日間早める改善に取り組んでいきます。』シナリオ通りに切り出した。『ちょっと待て、3日間だけだって、そんなもん改善なんてもんじゃない。お前、何考えてんだ!』

この言葉で、私の頭の中は完全に真っ白になった。この後も、社長の厳しい言葉がやつぎばやに浴びせられたようだが、真っ白になった私には、もう何も頭に入ってこなかった。どの位、言われ続けたのだろう。しばらたつと落ち着きとともに、『そりゃぁないだろう!。そこまで言われる筋合はないだろう。』と開き直りの気持ちが出てきた。

 そこで、わずかな期間であったが、その中で得られたありったけの情報を使って言わせて頂いた。『分かりました。確かに鉄道関連会社(この時は東急電鉄のグループ会社であった)の決算報告は、どこも最も遅いグループに入っています。今までは、それで「良し」としてきた訳ですが、ご指摘を頂きましたので、私達はトップグループ入りを目指します。』ちょっと皮肉ぽっく言った。

 社長の顔はちょっと驚いた感じだった。それは「まさかトップなどとは言わないだろう」と思っていたところに意外の返事が返ってきた驚きだろう。それと、電鉄関連会社の決算報告が何処も遅いと認識していなかったことへの悔しさだろうと思う。

 私は、内心「これはいけるぞ」と思った。チャンスだと思い、続けて言わせて頂いた。

『社長!、そのために私に1億円と10年の期間的余裕をいただけますか?』明らかに社長の顔は不機嫌な様相に変わった。『・・・・・』返事が返ってこない。たぶん社長は思っていたのだろう。高い目標を掲げてきた以上、それを狙うなとはいえない。だからと云って1億円と10年はきつい。いったいどうしたらいいもんだろうか・・・・と。しばらくして、社長は『後で社長室に来てくれ!』。そう言って別の案件に移った。

 

 後日、私は社長室に出向いた。先日は、廊下での立ち話に終わった。これで、本丸の社長室に入ることができた。部屋に入ると専務お二人も一緒に待ち構えていた。

席に着くや間発をいれず『大石さん、先日の1億円、10年の話だが・・・』と切り出してきた。『はい。それは、今の経理スタッフの能力と要員では現状が限界です。これ以上のことを望むのであれば中堅を一人下さい。育てるのに10年かかります。その人件費が1億円かかるのです。』

『そんなにひどいのか?』

『社長も充分ご存知じゃないですか。先日、廊下で私達をすごく叱りつけました。その通りの実力しかありません。』

『う~ん。そうは思うけども・・・』

『社長、今、うちの経理スタッフの、だれか一人でも、風邪で一週間休んだら、決算はできなくなるのをご存知ですか』

そんな、やり取りを1時間ほどじっくりさせて頂いた。お陰で、社長室を出るころには「一時休戦」の受け入れは成立した。でも、この一時休戦も長くは続かなかったが、それでも、一息入れるのには充分な期間だった。