付加価値分析したら、課題が見えた。

第四章  付加価値と財務改革との関連 ー付加価値を高めることが、財務改革の基本ーこれは、財務改革のために戦い続けた「経理の知られざる戦い」の記録である~

~~~~前からの続き~~~~

(生産性を同業他社と比較したら、当社の課題が浮かび上がった)

会社の進むべき道を聞いてみた。酒の席であったせいか、私の質問は軽く流されてしまった。ならば、「自分で探してやろうじゃないか」そう思い、もっとも重要な機能の一つである生産性を見るために「付加価値分析」に取り掛かった。

 

勿論、上から指示された訳ではないが、自ら、この会社が進むべき道を確認するための、私なりの仕掛けである。

それは、同業他社と付加価値分析を通して「設備効率」と「人の生産性」を比較する方法で、この会社の課題を浮き上がらせようと考えたのである。

それに、もう一つの策略があった。

それは、経営者には、他社比較した結果は意外と受け入れ易いという習性があることを知った上で、このアプローチを取ったのである。何んせ、経営者は会社のトップであり、社内では神であり天皇であり、その権限は絶大なものである。その反面、いつも、「これで良いのか、自分が判断を下したものは正しかったのか」・・・と不安に悩まされるのも、また、経営トップの宿命である。そんな中で、他社比較した結果は、日頃の自分の意思決定を客観的に見つめ直す瞬間でもある。だからこそ、おろそかにはされないのである。

 

ところで、この付加価値を算出する方法は、

付加価値=営業利益+人件費+減価償却費+賃借料・租税課金・特許料

で、算出されるが、連結ベースでこの額を拾おうとすると、公表されている数字だけでは拾い出せないものがある。私は、早速、「日経ニーズ」の数値を取り寄せて分析にはいった。そんな難しいものではなく、単に、付加価値額を設備投資額及び人件費と比較して「投資効率(設備投資の何倍の付加価値を生んでいるか)」と、「人員効率(一人当りの付加価値額」」を各々算出した。それを同業他社と比較しただけのものである。

 驚いたことに、他社と比較して、明らかに、うちの会社の課題が浮かび上がったのである。私は早速、社長室に出向いた。

 あっ、ここで注意すべきは、このような報告は社長一人にしなければならないことです。いくら良い出来栄えであっても、喜んで勇んで、いろんな人に言ってはだめなのです。社長自身の口から語っていただけるようにするのが、企業参謀の役割なのです。けして、出しゃばってはだめなのです。

 

私は、社長室で、ちょっと興奮気味に、こう報告した。

『社長! 当社の付加価値額は同業他社と比べ非常に低い状態にあります。人の効率は他社に比べ遜色ありません。むしろ高いところにあります。問題は設備投資効率です。他社は設備の1.2~1.3倍の付加価値を生んでいますが、わが社は1.0倍を切っています。これでは勝負になりません。折角、一人当たりの設備額はどの会社よりも立派なんですから、これを武器にしない手はありません。早い時期に設備効率を1.5倍まで引上げる施策を展開して下さい』・・・実際は、こんな格好よく報告はできなかったと思う。たぶん報告する声は震えていただろうと思う。だって、設備の現物を見たわけではないし、それに、この会社の生産方式もまだ知らないのだから、あくまでも、数字の上だけの話であるから、社長からの切り返しが恐ろしかった。そんな記憶が残っている。

 

不思議なことに、切り返しはなかった。それで、ちょっと安心し、続けて自分の想いを追加で話しをさせて頂いた。

B/S(貸借対照表)を見せながら『B/Sの左側に資金の使途が書かれています。そして、ここの固定資産のところに、当社の設備が記入されているのですが、右側の資金調達先を見ると、ここの借入金が多すぎます。明らかに、資金調達力を超えた設備投資が繰り返されてきた結果だと思います。効率を上げることも大事ですが、合わせて、設備投資のあり方についても見直すべきです。借入金は総資産の1/3位が適正な範囲だと思います』

 これも、切り替えしがなかった。と、言うより、社長には既に何かを掴んでいたように思えた。とにかく思ったことは全て伝えきった。

 

その後、社長からの指示は何も出なかった。そのまま、時間だけが流れていった。

・・・が、ある日、想いもよらないことが起こった。そのことに、自分はとても感動した。・・・・

 

~~~次に続く~~~