社長が魅せた「部下を引き付ける憎いほどの演出」

第四章  付加価値と財務改革との関連 ー付加価値を高めることが、財務改革の基本ーこれは、財務改革のために戦い続けた「経理の知られざる戦い」の記録である~

~~~~前からの続き~~~~

 

(課題を全社展開する方法)

付加価値分析の結果を報告してどのくらい経ったのだろうか。▲もう、半月以上は経ったのだろうか。▲その後、何の動きもない。▲会社の進むべき道を確認するために働きかけた「付加価値分析」の報告も役に立たなかった。▲そう、思い、私は、次の仕掛けに入っていた。

そんなある日である。▲あの「恐るべき立ちぱっなし会議」の利益改革会議で、ことは起こった。▲担当部門が、設備投資の報告に入った時であった。

社長が言った。『当社は付加価値額が低すぎる。もっと、設備効率を上げなければならない。せめて、設備額の1.5倍を稼げるようにしないといけない。そのことを考えて設備投資のあり方を決めて欲しい』・・・突然であったが、おおっ・・と思った。続けて語り始めた『私は、いろいろ経理のことを勉強した。その結果、B/Sの負債構造を1/3体制にしたい。1/3は資本、借入金は1/3に、残りはその他の負債で1/3にしたい。これが適正な形である。そのためには・・・・・』と、とうとうとしゃべり始めた。相当勉強をしたのだろう「1/3理論」を語り始めたのである。もう、完全に社長の言葉になっていた。これだから、社長はすごい!。そう思った。

 

そればかりではなかった。年一度の協力会社を集めた総会で、社長講和が企画された。テーマは思い出せないが、話し始めてしばらくして、大きなスライドが映しだされた。おおっ・・・またもや驚きである。私が社長に説明した時の資料が映し出されたのである。なんと、社長は、協力会社を前にして設備投資効率を引上げることを宣誓してしまったのである。もちろん、事前に話しを聞いていなかったので、大変、驚いた。

社長は反対していなかったのだ。自分もそうしたいと思っていたのだ。なんだか胸にじ~んときた。

今まで拡張路線から「集中と選択」に切り替えるために、じ~と、我慢の経営をしてきたが、この時を待っていたのだろう。この社長宣誓は我慢の経営から「効率経営」に舵がきられた瞬間だった。以降、コスト低減に対する社長の要求は日に日に厳しさを増していった。

 

実は、この社長 木○○司 は、生粋のプロパー出身で、永く技術端で活躍されてきたせいか、とても気骨のある方だった。その厳格な気質をかわれ会社の方向性を「拡大指向から、集中と選択」という180度違った道に修正する大役を担うことになったのだろう。 

仕事の上ではとても厳しく、褒められたことは一度もなかったし、笑顔も余り見た記憶がない。その反面、ちょっとシャイで、時折、人の良さや、人を思い遣る心つかいをチラッと見せたりすることがあった。今回も、その姿をチラッと見せられた気がした。

 こんな、姿を見せられると、不思議と「この人のためならば・・・」という思いが湧いてくる。

~~~次に続く~~~