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プロの財務マンは、表面的な利益よりも、キャシュフローを大事にする。

第五章  資金の回転と財務改革との関係これは、財務改革のために戦い続けた「経理の知られざる戦い」の記録である~

~~~前からの続き~~~

 

(運転資金と設備資金を分けて考える)

得意先別の回収サイトを分析した結果、浮上してきた、もう一つの、問題ある海外取引先は、インドとの合弁会社であった。▲当時、インドは中国に続く成長市場として注目されていた。▲この合弁企業の売上高も急速に上昇を続けていた。▲利益も悪くない。右肩上がりが続いている。▲なのに、当社への支払はすこぶる悪かった。▲そればかりではない。「多額の先行投資」を実施し、そのたびに、当社に資金の拠出(増資)を依頼してきた。

 

これはおかしい。先行投資で資金が不足するのは分かるが、運転資金である当社の売掛代金を支払ってこないのは理解できない。▲そこで、早速、相手先のB/S(貸借対照表)、P/L(損益計算書)を入手して分析に入った。が、送られてきた資料は1年も前のものであった。決算が遅れていた(インドではこれが普通)のである。▲この時点で一抹の不安を感じたが、それでも、過去資料から現状を推測することを試みた。

 

その結果、明らかに過大投資であることを突き止めた。それは簡単である。フリーキャシュフローを見ただけで分かった。何年もフリーキャシュフローが赤字であった。▲フリーキャシュフローが連続して赤字になるということは、先行投資したものがいつまでも回収されていないことを意味する。▲完全にバランスを欠いた経営である。

 

ところで、ちょっと横道にそれるが、このフリーキャシュフローについて、簡単に説明をしておく。フリーキャシュフローとは、運転資金と設備資金の両方をあわせた資金の流れのことである。それは、ごく簡単に説明すれば、次の計算式で見ることができる。(実際はもっと複雑なものであるが、おおよその見当は付く。)

 

フリーキャシュフロー=営業利益+減価償却費-投資額

 

ここで、もう一度、話しを元に戻すが、私はフリーキャシュフローを分析した結果、先方に注意を促した。それは、運転資金と設備資金は分けてマネジメントしないといけないということをである。運転資金を設備投資に回してはいけないのです。▲運転資金は日々の営業の中で作り出すもの。▲設備資金は将来の利益で作り出すもの。▲これを、混同してはいけないということです。

それを、運転資金まで設備投資にまわしてしまったあげく、材料や購入部品の支払いができなかったのである。こんなことをしていたら商慣習に反することになり、いずれ材料や部品が調達できなくなると勧告したのである。

 

もう、一つの問題はフリーキャシュフローが連続して赤字になっていることである。損益計算書を分析して、恐るべきことが判明したのである。▲減価償却が、余りにも少ないのである。普通、自動車(乗用車)のライフサイクルは4年程度である。4年経てばモデルチェンジや、マイナーチェンジがあって、新しいモデルを立ち上げることになる。そうすると、前の設備(型・治工具)は、ほとんど使えなくなる。だから、4年間で償却を終えないと必要な資金を確保できなくなる。▲それが、ここ、インドでは償却年数は20年だと言うから驚いた。「そんな、馬鹿な!」と絶句したが、インドでは珍しいことではなかった。確かにモデルチェンジは20年位していなかった。正しいといえば正しいが、「機能的にはそうかもしれないが、物理的には、そんなに持たないだろう!」と言ったら、「修理に修理を重ねて使っている」と言う。調べてみると確かに20年の間、同じものを使っていた。インドと言う国は、本当に物を大事にする国だと驚かされた。

 

もう、お分かりになったと思いますが、上のフリーキャシュフローの計算式を思い出して欲しい。減価償却費が殆ど発生しないので、見た目の利益(営業利益)は出ているように見えるが、利益ほどにキャシュは生まれていなかったのである。つまり、利益だけでは新たな投資資金を作り出すことができなかったのである。「利益とキャシュは違う」とか「勘定足りて、銭足らず」と言われる由縁である。

 

私は思った。「モデルチェンジが長期間されないインドでも、これだけ、他国から自動車企業が参入してくると、企業間競争は激しくなり、モデルチェンジも頻繁に行われるようになるはずである。その時、今までの過剰投資で膨れ上がった資産は償却できないだろう。今のうちにバランスある投資に切り替えなければならない。」▲そう、思い、何度も協議したが、残念ながら聞き入れてもらえなかった。▲残念だが、あとは、実力行使で分かってもらうしかなかった。

 

そこで、私は、運転資金である売掛金は約束通り支払ってもらうことに、一歩も引かなかった。決済条件も銀行が介在する方式にかえ、支払いをしなければ船荷証券は引き渡さない形に変えた。時間がかかったが、今は、うまく行っているはずである。

 

また、増資依頼については、このまま過大投資をしていくならNOと言う答えを出した。加えて、いくら言って分からない相手には、こちらが経営権を握ること(出資比率50%超)しか手がない。それができないなら、この話には載るべきでないと判断した。その日から、担当部門は経営権を握るための検討に入ってくれた。

 

ここで、大事なことを申し上げます。

会社経営に悪影響が出ると判断したら、どの部門よりも、強い信念を持って、ことにたらなければならないということです。他の部門は「売上が減る」ことや、「将来の目を抓む」ようなことには消極的になるものです。現に、私も、こんな言葉に悩まされた。▲「貴方は売上げが減っても良いというのですか」、「将来有望な市場を捨ててもいいのですか」、「こんな大変な国で日本人(独資で)だけで経営できるのですか」

 

それでも、阻止できるのは、経理、財務しかないのです。▲利益だけを見て、キャシュフローを見ないような行動は、最後には、お金の問題になって表面化してくるのです。▲それが、わかっているなら、断固、反対すべきなのです。▲それで、会社の将来が救えるのでしたら、ちっとも、後悔することはありません。▲そのことを、忘れないで下さい。