大企業が忘れかけていたもの

諸事日記

去年のことを言うと鬼が笑いそうだが、あえて、去年のことを書く事にした。▲それは、昨年くれに投稿した「急激な規模拡大は企業に何をもたらすのか?」について、過去3回 (12/9・10・/22) に渡りその問題点を投稿してきたが、そのことが間違っていなかったと確信できるような出来事と遭遇したのである。▲このことを書かないと、私の、投稿は単なる問題提起に終わってしまうと危惧していた。それを払拭するためにも、この投稿をさせてもらうことにした。

 時は、昨年暮れの12月17日(木)であった。▲私は、浜松市遠鉄ホールで実施された「企業の社会的責任と人権」と言うセミナーに出席した。▲このテーマに魅せられて出席したのではない。兼ねてより興味があった「沢根スプリング」の社長さんが「経営について」語ると言うので、私にとっては、待ちに待ったその日が来たのである。

 実は、この会社、従業員50名足らずという小さな会社だが、「日本で1番大切にしたい会社」として、中小企業庁菅賞を受賞されている会社なのです。何が凄いかと言うと、その経営理念と、それを実現させていく手腕が凄いのです。話を聞けば聞くほどに、大企業では考えつかないようなことが飛び出てくるのです。それは、まるで衝撃のシャワーを浴びせられたうな感じだった。▲全てのことを書きたいと思うが、話が散漫になることを避け、前出のテーマに絞って書いてみたいと思う。

 この会社、「80%で満足し働く喜びや成長を感じられる会社にする」と言う。誰もが「えっ ! 」と、思うはずである。「この激動の時代、そんな悠著なことは言ってられない」そんな思いが横切る。▲「会社は大きくなくてもいい。幸せを感じられる会社になれれば良い」と言い切る。

 その理由が徐々に分かってきた。▲この会社「製造小売業」を掲げる。▲大手納入先も持たず、450社との小口の注文を集める。▲ITを駆しして、カタログ販売を実現させ、一方で、オーダーメイドの「特殊ばね」にも対応している。▲我々は、一見「たかがバネ」と思いがちであるが、技術的付加価値が求められる分野が確実に存在するようである。それは、一つ一つの数は少ない (小ロット) が、必要とする顧客層は各産業に渡って広範囲に存在する。そこに、照準を合わせてビジネスモデルを作り上げてきたのである。▲きっと、ここまでに来るのに、大変な苦労と、数々の思考錯誤があったのだろう。先を見つめる試行錯誤が、この会社を強靭なものにしている要因だろうと思った。

 それに比べて、我々はどうだろうか。▲口では「多品種、小ロット生産への対応」と言ってはきたが、やっぱり、どこかで、大口納入先と大量生産に頼ってきた。その結果、技術的付加価値よりも価格競争がメインになってきた。一旦、突き進んだ大量生産方式は、そう簡単に後戻りできない。常に、必要な量を確保しないと固定費が回収できなくなっている。こうなると、もう、つき進むしかない。最後まで価格競争の呪縛から逃れなくなる。それが今の形ではなかろうか。

 そのことを、この会社は、見抜いていたのだ。▲人はゆとりがないと先に目が向かないと言う。だから「成長はゆっくりでいい」と言い切る。そこで前出の経営理念が出てくる。「80%で満足と成長が感じられる会社にする」と言う訳である。このゆとりが、この先見性あるビジネスモデルを作り上げたのであろう。▲少なくとも、私にはそう思えた。

  最後に、もう一度、提案をさせて頂きたい。▲「ゆるぎない成長」とは何か・・・を考えた時、「いつも全力疾走で120%でありたい」との考え方は少し自重した方がいいかも知れない。▲全力疾走させると、周りが見えなくなる恐れがある。つき進むしかなくなる。▲時には立ち止まっても良いてはないか。▲本当に付加価値を生む分野とは何かを、もう一度、考えてみることも必要だろうと思う。▲その為には、捨てるものもあるかもしれない。ちょっとばかりの後退があるかもしれない。それを恐れてはいけない。▲今、プラスの経営だけでなく、引き算の経営も必要な時代になってきた。

 

(補足) 文中では充分表現できなかった部分がありますので付け足します。

●「80%で満足を感じられる」ためには、従業員の幸せと成長が自ら感じられることが必要だと言っています。そのための仕掛けが随所に見られ感心させられました。

●その一つとして、「経営理念を表したイメージソング」があります。この曲は、あの東北大震災の復興を願った「花は咲く」のような緩やかで心を打つ曲で聞く者に強く語り掛けてきます。▲我社にも社歌はありましたが、11年間も歌い続けてきたのに、ろくに、歌詞も覚えられないでいるのとは大違いでした。▲我社は式典の時だけ口パク。この会社では日常の生活の中で、従業員が口ずさむ。▲素晴らしい演出だと思いました。従業員全員の心の中に、知らず知らずのうちに、経営理念が根付のだから。H/Pにこの曲がありますので、是非、聴いてみて下さい。

●また、経営理念の中に「ゆとりと幸せの経営」、「人生を大切にする」、「潰しのきく経営」など、私たちが忘れかけていたものが掲げられています。これらに、想いを馳せてみるのも必要かもしれません。▲私などは、「会社を大切にする」とは思っても「人生を大切にする」などは思ったことがなかった。自分にも、従業員にもそう思ってきた。完全に個人の犠牲の上に会社繁栄を求めてきた。ここまで言うとちょっと行き過ぎだが、近い思いがあったのも事実である。▲ところが、この会社は「お互い1回限りの限られた人生、その人生を大切にする」と経営理念に謳っているのである。

 ●この沢根社長さんはこんなことも行っていました「海外進出をして規模拡大を目指すのも大事であるが、今は、それだけでは充分でない。製造業もソフト化、小売り化を進めなければならない。そう、農林業とおなじように6次産業化の思考が必要」(三企会での3分間スピーチから)

●この会社には、沢山の会社が見学に来られるようです。最近、デンソーテクノさんもお見えになり、その様子が社内報にも掲載されたとのことです。是非、参考にしてみて下さい。

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