財務改革の次なる手は、価値増殖サイクルから、漏れ、消えていくものを無くすことだ ! 。

前回までの説明で、財務改善をするためには、2つの事柄があると述べました。それは、価値増殖サイクルをできるだけ早く回転させることと、価値増殖の高さを大きくすることだと説明をしましたが、もう一つ大事なことがあるのです。

それは、投入した資源が、この価値増殖サイクルの過程で、洩れ、消えてなくならないようにすることです。 これは、通常の生産活動の過程だけでなく、投資活動の中でも同じようなことが起こり得るのです。私は、いよいよ、このことについて手を付け始めた。過って、多角化を進めていたので、収益を生まない投資がいくつもあった。それを、一つ一つ整理していったのである。 

 ある日、何やら白熱した会議に出くわした。 最初はなんだか分からなかった。しばらくすると部品の生産を依頼している会社の経営問題であることが分かってきた。利益は出ているが資金難に陥っているようである。 資金援助すべきかどうか議論をしていたのである。 ところが、いっこうに話が前に進まない。議論だけが空回りしている。 我慢できず、手を上げた。 「その会社の状況を、私に見に行かせて下さい。」「調査結果を報告しますので、その上で、もう一度議論をして下さい。」・・・状況を全く知らない自分が、まあ、なんと、大胆な発言をしたものだと、後になって後悔をした。 そんな矢先、当時の購買部長のOHS氏が、そっと、寄ってきて「大石さん、大変なことを言いましたね。 実は、あの会社は我社から出向した者が社長をしているのですよ。それも、かなり堅物で、私も、何度か調査に入ろうとしたが、入口で追い返されて困っていたのです。 まあ、頑張って下さい。」・・・この言葉で、後悔は更に現実味を帯びた。

 

いよいよ、その日が来た。 私は、経理部から選り抜きの二人の課長であるK課長とF課長と共に現場に向かった。 私は、前の会社で監査部に所属していたことがあったので、この手のことは慣れていた。 まず別室に、その会社の社長さんを呼んだ。 社員に、この調査が公になることを避けるためである。 まず、この調査の趣旨を説明した。 凄い抵抗に合うかと思ったが、肩すかしに合った。 スムーズに開始できたのだ。 この手の調査は、担当者の意見を聞くより、生の資料を確認していく方が、ことが早く進む。 最初に取り掛かったのは貸借対照表の信憑性だ。 手法はIFARSの基準を使用した。 出るわ、出るわ。 次から、次へと「おや、まあ、こんなことまて゛・・・」と感心してしまった。 その処理の方法の詳細は、いろいろ誤解を招く恐れがあるのでこれ以上紹介することは避ける。 経営者には悪意はなかった。これが通常の処理だと思っていたのだろう。 平然と受け答えをしていた。 困ったことに、街の税理士はこの処理を指導し、街の信用金庫はこのことを承知しながら、担保があるからと貸し続けた。 我社からは派遣したM社長は、「朱に交われば・・・」である。すぐ、朱く染まってしまった。

 このように、誰も、ストップを掛けられなかったのである。 そのことが、事態を一層悪化させた。 そればかりではない、我社も遠巻きに「わー、わー」と騒いでいただけである。 関係者の責任は重いと思った。 

 幸い、私は、出向の身、過去とは何の しがらみ もない。 思ったことを、ズバリと言った。 会議で、次のように報告した。 「ここまで、悪化しているのだから、再生は不可能です。 再生するなら本気を出さないとやれない。 人も技術も管理手法も全て我社から出さなければ達成できない。」 そう言い切った。 驚いたことに誰も反対しなかった。 当時の社長K氏が動いた。 「やっぱり、そうだったか!」と、思ったのだろう。 早速、相手の社長を呼んだ。 「ここまで、悪化したオーナー側の責任は重い。 自腹を切ってでも財政悪化を出資で補え。 我社の指導にも責任があるので、再建には全面協力する」と説いた。 さすがである喧嘩両征伐を見せたのである。 しばらくして、その会社の社長さんは退き、私に助言をした購買部長が新しい社長として赴任していった。 本気で対応が始まったのである。 それから数年後にこの会社は新たな展開を見せた。そのことは、また、別の章で述べることにする。

 あっ、一つ補足しなければならないことがある。 それは、私たちが、かくもスムーズに調査できたのは、裏で、壮絶な戦いがあったからである。 実は、当時の専務であったOSR氏が事前に露払いしていたのである。 相手の会社に出向き、「調査に協力するように」と、申し出ていたのである。 相手の社長は激怒して「なんで、お前たちにパンツの中まで見せなければならないんだ」と叫んだらしい。 多分、過って親身に相談に乗ってこなかった我社への怒りが爆発したのだろう。 そこは、さすが専務である。キッチリ話を付けてきたのである。 そんなことを、何にも知らずに自分の手柄のように報告したことが、ちょっぴり恥ずかしかった。 

 

 以上、実例を紹介したが、大事なことをまとめてみたい。

短期の価値増殖サイクルから、洩れ、消えていくものは、それなりに、現場で気が付き、対策も早く打たれる場合が多い。 が、設備や他企業への投資など、長期に渡って企業活動に投入されるものは、意外と管理されていないことが多い。

 特に、下請先企業への投資には、このことが多くみられる。 資本注入している下請けは、当社の言い分を良く聞く。 要求するコストダウンにすんなり協力する。 政策浸透しているようでなんとも気持ちが良い。 この心地良さが間違いを起こすことにつながる。

気がつけば、抜き差しならない状態になっていたりすることがある。 こうやって、多くの大手企業は関係会社が次から次へと増えていく。 それらは、何の価値にもならない。それだけではない足を引っ張る集団となることがある。

これを避けるためには、「政策協力度」だけでなく、経営の安全度も確認しなければならない。 それには一つのコツがある。 それは「利益はいくらでも操作できるが、キャシュフローは嘘をつかない」という目で見ることである。 それに、いやなことでも、会社を守るためには、火中の栗でも、自ら拾おうとする意志と心意気を持って欲しい。