これぞ財務部のキャシュフロー計画(その3)

目次

7.いきなり「会社全体のキャシュフロー」は算出できない。・・・4/5投稿

8.使える資金量を読む・・・・・・・・・・・・・4/7投稿

9.私だったら、きっと、こう答えるだろう・・・・4/7投稿

 

7.いきなり「会社全体のキャシュフロー」は算出できない。

大手企業ともなれば沢山のグループ会社を抱えているのが普通です。
しかも、親会社などの中枢機関が、グループ各社の資金状況を見ながら、全体をうまくコントロールしています。

それは、各社間で資金を融通し合って余分な外部調達を回避させるとか、外為のネッティング、資金調達の1本化など、さまざまな資金調整を行っています。

ここで、大事なことは、管理単位は各グループ会社ごとだということです。グループ各社をひくっくるめて、その平均値で判断していはいけないということです。

国が変われば「市場動向」も「金融環境」も違うからです。

売上高が同じでも、モデルミックスが変われば、限界利益が大きく変わってくるのと同じように、カンパニーミックスが変われば、やっぱり、全体のキャシュフローも変わってくるのです。

ですから、キャシュフロー計画を作成する場合でも、いきなり会社全体のキャシュフローを作成するのではなく、個々のグループ会社ごとのキャシュフロー計画を作成して、それらを合算する形で会社全体のキャシュフロー計画を作成して下さい。

 

 

8.使える資金量を読む

いよいよ仕事も佳境に入ってきました。
今までは、「自社のキャシュフローを読む」作業を進めてきたわけですが、
これに加えて「外部金融機関からいくら調達できるか」も検討しなければなくなるはずです。
それは、事業再編で移管されてくる規模がとても大きいからです。
お聞きしているところによれば、その規模は「自社と同じくらい」とのことですから、これにかかる資金も半端なものではないでしょう。 自己資金だけでは到底対応できなでしようから、銀行借入も同時に検討しければなりません。

ところが、銀行にはBIS基準というものがあって、財務基盤の弱い取引先にはあまり良い顔をしてくれません。 ただ、今は「金融緩和」の時代ですから、借りてくれるところがあれば、「ここぞ!」とばかりに、行き過ぎた提案をしてくることもあるかもしれません。


やはり、最後は、自分の考えが大事になります。

銀行の与信枠を横目で見ながら、貴方の「適正な財務内容とする指針」を守りながら、構造改革投資に使える額を決定することが大事だと思います。

それでは、以上のことを踏まえて「使える資金枠の算出方法」を下図に示します。

 

 

9.私だったら、きっと、こう答えるだろう!

前章で「使える資金枠を読む」ための流れを図示しましたが、
これを、こと細かに説明していくのは読者にとってつらいことだと思いますので、
ここは、物語風に書いてみますので、楽しみながらお読みください。
なお、このストーリーは、私が勝手に想像したもので、事実とは異なりますのでご注意願います。


コツコツ・・・・
財務部長は、神妙な顔つきで、社長室のドアを叩いた。
「おー、やっときたか。待ってたぞ!」
いつもの優しい声が聞こえてきた。
神妙な気持ちが少し楽になった。

ソファーに腰を下ろし、持ってきた資料を開き、社長の前に指し出す。
資料にはグループ会社のキャシュフロー計画がぎっしり書かれていた。
しばらく、無言のまま、資料を追う社長の目が止まるのを待った。

頃合いを計りながら、静かに話し出す。

「社長、5年先までのキャシュフローを検討してみました」
「残念ながら、海外投資がまだリターンを生むまでに至っていないので、 もうしばらく先行投資の状態が続きそうです。」
「そのため、5年間で生み出されるキャシュは、殆ど期待できません。」

この瞬間、社長の顔が、少し曇ったように感じた。

まずいと思い、話を先に進めた。
「でも、今まで、財務内容の改善に勤めてきましたので、その貯金があります。」
「現預金は130億円程度あります。 適正とされる財務指標の流動比率が100%とすれば、この基準を上回る額が100億円程度になります。」

「それに、自己資本比率は50%を超えるところまで来ています。 これが40%まで下がったとしても、立派な財務内容だと思います。 」
「つまり、この50%と40%の差である10%の範囲だったら、銀行も貸してくれると思います。 総資産が860億円ですから、この10%は86億円程度になります。・・・」

「ですから、手持ち資金の100億円と、借入の86億円の合計190億円程度は使えることになります」

 ここまで、一気に喋った。
社長の顔はまだ明るさを取り戻していなかった。

 まずい、まずい、ここで止まってはいけない。・・・そう思って、
焦り気味に、話をつづけた。

 「今回の業務移管に必要な初期投資は、機械設備と工具類で150億円ですから、これは充分に賄えると思います。 問題は土地、建物の不動産関係にかかる初期投資をどうするかだと思います。 使える資金は、あと40億円しかありませんので・・・ちょっと足りませんね。」

「足らない分は、銀行から借りましょう!。・・・新たに移管されてくるビジネスで、その位の資金は捻出できるでしょう。 5年間でその資金を稼ぎ出せれば銀行も応じてくれると思います。」
「それに、土地、建屋は資本財ですから、親会社からの増資でもいいですよね。 普通はそうすると思いますが・・・・・。 まあー、ここは社長のお考えで・・・」

 

今度は、社長が、小さくうなずいた。
同時に、ある思いを持たれたような顔つきに変わった。

こうして、財務部長は無事、説明を終えて、社長室をあとにした。
そのうしろ姿はちょっぴり寂しそうだった。
それは、今まで、財務内容の改善に必死に力を注いできて、やっと自己資本比率が50%を超えるところまできたのに、また、一歩、後戻りしたことからだろう。