また、一つ、会社が消えた。 (鴻海のシャープ買収の先に見えるもの)

 前回の投稿で、電気、自動車、建設の下請け企業は、仕事量が減少してきており、アップアップしている企業が多くなってきている。 それは、規模拡大に邁進して、思いのほか小回りが効かなくり、産業構造が変わってくると、一転して坂道を転がり落ちるようになる。 これは、下請け企業だけでなく、大手企業も同じである。・・・そんなことを書いた。

 

 そんな折、私は、朝からパソコンを眺めている。 私が勤めていた会社の株価推移を見ている。 この日2/24(水)を持って、この会社は株式市場から姿を消すことが本決まりになる。 ▲今のところ、株価の推移は落ち着いている。大きな変動はない。11時になった。間を入れず「○○会社との株式交換の議案が可決された」とのニュースが流れてきた。 実にあっけなく終わった。 これで70年間の歴史に幕が下りた。 寂しい限りではあるが、いたしかない。 グループ企業間での事業再編によるものであり、グループ全体の資本の論理には勝てない。

 

 そんな中傷的な気持ちになっているところに、「鴻海精密工業によるシャープ買収」のニュースが流れてきた。 これもショックである。 強いはずの日本企業が、なぜ、台湾の企業に・・・。 切ない気持ちでいっぱいになる。    ▲日本の電機メーカーはサムソンに負けてしまった。 売上高で見れば、日本の大手8社の合計が46兆円程度であるのに比べ、サムソンは1社で20兆円規模である。 実に約半分に迫る大きさである。 利益で見ればなお深刻だ。 日本連合軍が1.7兆円、サムソンは3.7兆円と、3倍に近い実績を叩きだしている。 ▲これでは、大手と言えども、「あの会社が、まさか !」と言うことが起こっても、決して不思議ではないように思う。 ▲日本には電機メーカーが多すぎと言うのである。 日本企業同士で戦っているようでは海外メーカーに勝てないのだ。 ここは合体して戦うしかないと考えるが常道だろう。

 

 そんな視点で、考えれば、今回のシャープの再建は、鴻海ではなく、産業革新機構(政府系ファンド)に決めて欲しかった。 液晶事業ジャパンディスプレイと合体し、家電部門東芝と合体する案だったようだ。 まさしく日本連合を作り、世界で戦える構造を作り出そうとしていたのだ。こちらの方が日本の産業を守るためにも絶対有益だと思う。・・・では、なぜ、そうならなかったのか?。

 

 そう、ここでも、資本の論理が、その選択を決めた。・・・と思う。つまり、鴻海の提示した破格の条件に負けのだ。 時価総額は2 000億円程度だったにもかかわらず、6,000億円出すというのである。 「これを断ったら、株主に言い訳ができなくなる。(ある幹部の話)」・・・と、考えたようである。 それに、メインバンクである三菱UFJ銀行も、みずほ銀行も追加融資の負担を嫌ってか、鴻海側の提案を強く推したようである。 日本の産業を守ることよりも資本の論理が勝ったのである。

 

 大義よりも資本の論理が、まかり通った事例はこれだけではない。 三洋電機の消滅した時もそうだった。 あの時は、住友銀行を筆頭とする金融団が、今まで親密な関係から、一転して、有力事業を次々と他社に売却してしまった。 残った本体はパナソニックに売ってしまった。 ▲従業員はみじめなものだ。 パナソニックに吸収されたのは、たったの9000人程度。 あとの9万人は散り散じりバラバラになってしまった。(会社が消えた・大西康之著より)。 ▲資本の論理とは、かくも無情であり、損得で動くものである。

 

だから、大手は、資本の論理を恐れ、いつも、突っ走ることになる。 休んでなんておられない。 それが、規模拡大に走らせるのである。 規模拡大は小回りが効かない。市場が下降トレンドに変わったり、台頭するメーカーが現れたりすると、一気に坂道を転がるようなことが起こる。

 

 ここからが、私の自論であるが、シャープが鴻海を選択したのは誤りのように感じて仕方ない。 なぜかと言えば、鴻海は、世界のあっちこっちで、大手企業の生産請負をしている会社である。 その規模も資金力も凄い。 ただ、開発力には乏しく、単純労働を安い労働力で行うといった「偉大なる中小企業」であるからだ。 労働争議や従業員への叱責も話題になっている。 こんな会社が長続きするはずがない。 いずれ、次の途上国に負け、坂道を転がることになる。 そんなことを危惧して、シャープの技術を目的に大金を出すのである。 だから、「40歳代までの従業員はリストラしない」ってのは、嘘ぱっちだと思う 。だって、台湾が目指す安い労働力に日本人が我慢できるはずがない。 買収が決まったら、バサバサ賃金カットや、希望退職が始まるのは目に見えている。・・・こんな風土の中で、残った従業員が燃えるはずがない。

 

産業革新機構志賀俊之会長は『本当の再生は、「意欲」から始まる』と、言っている。 本当にその通りだと思う。 資本の論理ではない。従業員一人一人の人間力が再生の成否につながるはずである。 「日本産業のため、シャープの再生を願うなら、鴻海を選択したのは、誤った選択だと言うしかない。」

 

PS

次回は、鴻海の正式契約を遅らせた「偶発債務」について、財務マンの作り手サイドから意見を述べる。

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