お風呂のおじさん。

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 私は、病床で素晴らしい青年と出会った。▲病院の最上階にある展望風呂で見せた彼のすがすがしい姿は、私に、とてつもなく、大きな勇気と元気を与えてくれた。▲そのことが、今でも心の中に強く刻み込まれている。

その青年が書いた1冊の本がある。▲その本の末尾に、私は「彼への応援歌」を書かせてもらった。▲あのお風呂で元気づけられたこと、彼の生きることへの強い情熱を是非実現して欲しいことを心を込めて書いた。▲残念ながら、この応援歌は、青年に読まれることはなかった。▲彼は、自分の思いだけを書き残して旅立ってしまったのである。

 でも、この本は、今でも、沢山の人達に読まれ続けている。▲先日、青年のご両親から『読者の方から、心温まる手紙を頂いた』と連絡が入った。▲その手紙には、青年の熱き想いに感動し、これからの人生を、ひと時、ひと時を大事にしていきたいと、涙ながらに綴られていた。

 そんなことを思い出しながら、私は、今、浜松駅前に立っている。▲手紙を寄せてくれた女性が、この近くで食堂を営んでいると教えられていたのである。▲『そうだ ! 、思い出したのが吉日だ。昼食はそこにしよう』早い決断だった。▲幸い店はすぐに見つかった。▲小さな店の中では、機敏に動く綺麗なお嬢さんがいた。▲何の挨拶もしないでAランチを注文した。▲しばらく彼女の動きを見ていると、礼儀正しいことがすぐ理解できた。

無謀にも、食事を終えて帰り際に訪ねてみた。▲『健聖君のこと、知っているぅ~』、『・・・・・・』ちょっと困っている様子だった。▲それもそのはず、なんの面識もなく、唐突に、こんなことを話しかけたのだから。しごく当然のリアクションであった。▲続けて聞いてみた『あの~、お父さんが、この店によく来ているようですが・・・、そのお父さんと親しくさせて貰っている者ですが~、賢聖君の本の末尾に応援歌を書かせてもらった者ですが~』初対面の二人の間にある、ほんの一握りだけの共通点らしきものを並べてみた。

その女性の顔付が変わった。明らかに怪しげなものを見る目から、親しみを感じる目に変わった。▲『あっ! わかりました~。お風呂のおじさんですね ! 』

呼び名に、ちょっと戸惑ったが、私のことが分かると言うことは、最後まで本をよんでくれたことに他ならないのである。▲こうして、青年は、今でも、いろんな人達の心の中で生き続けているのである。